二次創作ノベル

「ハツメ、奢るからコメダ行こう」
「喜んで!」
「……いや、言っておいてなんだけど、理由くらい聞かないの?」
「人の金で食う飯は美味いって言いますからね」
「ブレないヤツめ」

 という訳で。まんまと誘き出すことに成功した。

「んで、これこれ。新作出てんだよね」
「ジョロキア餡子サンド……? なんですかコレ?」
「コメダファンに人気らしいね。どうする?」
「食べます。高いし」
「お前のそういうとこ好きだわ……あ、すんませーん!」

 とりあえず例のブツと二人前のカフェオレを頼んでおいた。

 でまぁ、現品が届いた訳だけど。

「あのー、今更なんですけど。今回は何企んでるんですか?」
「企むって言うか……まぁ、話したいことがあってさ」
「話したいこと?」
「うん。とりあえず冷めない内に食え食え」

 言いながら、スマホをこっそり動画モードで待機。

「はぁ……んじゃ、いただきまーす」

 大口を開けてかぶりついた。

「ん? なんか独特な……独特……んんんっ!?」

 次第に汗をかき、口を抑えて悶え苦しむハツメをしかと動画に収める。
 ふははは! ばかめ、かかったな!

「ジョロキアはなー。世界で一番辛いトウガラシの事だよ。いやぁ、勉強になったなぁ?」
「殺す! 首をもぎ取って惨たらしく殺す!」
「よっしゃ、その前に完食しようか。くのいちの癖に食い残しは良くねーなー」

 ピタリ、と動きが止まった。

「……なんの話ですか?」
「いや、ヴィオラ学園がおかしいだけでさ。ハツメの配信、見てるし」
「はぁぁっ!?」
「何なら心霊系ホラーゲーム実況で泣いたことも知ってるわ」

 一番のお気に入りは心理テストの時だけど、そこは秘密で。

 すぅ、と。ハツメの表情が凍る。
 先程まで馬鹿なやりとりをしていた人物とは思えないほど、冷たい瞳をこちらに向けて。

「……あぁ、なるほど。バラされたくなければ、ってやつですか?」
「いや、違うけど?」
「それならこちらにも……うん? え、違うんですか?」
「違うよ。とりあえず落ち着いてそれ食えって」
「あ、はい……んんんっ!?」
 
 馬鹿め、二度も引っかかりやがったな。
 ちゃんと余さず動画で撮っておいてやろう。

「なんて言うか……うん。ハツメだなぁ」
「嫌な納得の仕方しないでもらえます!?」
「あー楽しい。てかハツメと居るといつも楽しかったなぁ。何度か死にかけたけど」
「……あ、そっか。配信見てるんでしたね」
「うん、Twitterも見てる。今月末で引退だってなー」

 カフェオレを飲むと、まだ少し熱かった。
 ほろ苦く、少しだけ甘い。

「……学園も辞めるんだろ?」
「えぇ、まぁ。寂しいですけど、そうなりますね」
「そうか。まぁ、そうだよなぁ」

 寂しくないと言えば、嘘になる。
 何だかんだ、短くも濃い時間を一緒に過ごしてきた訳だし。
 馬鹿な事ばかりやったなー。大体こっちが酷い目にあったけど。
 それも含めて、楽しかったなぁ。

「なぁ、ちょっと思ったんだけどさ。金積んだら何でもするんだろ?」
「ある程度仕事は選びますけどね」
「じゃあさ。ずっと一緒にいて欲しい、ってのはどうかね?」
「……それは、無理ですね」
「無理かぁ。じゃあ仕方ないな」

 分かってるから、そんな寂しそうに笑うなよ。
 ガラでもない。ハツメにはもっと楽しそうに笑っててほしい。

「じゃあほら、これやるよ」
「……なんですか、これ」

 用意しておいた箱をカバンから取り出して渡す。
 ハツメの顔より大きな、赤いラッピングが施された箱だ。

「ヴィオラ学園のみんなからだ。ちょっと遅れたが、バレンタインだよ」
「……うわ。さすがに予想外でした。でも何であなたが?」
「そりゃ作るの手伝ったからな」
「手作りですかこれ!?」
「凄いだろ。みんなで頑張ってラッピングしたんだよ」
「気合い入りすぎてません?」
「まぁ、ある意味本命だからな、全員からの」

 ありがとうと、さようならと。
 みんなの万感の想いを込めた、最後の贈り物だ。
 それを手渡したいってワガママを聞いてくれた事には感謝しかない。

「また、会えたりするか?」
「……どうでしょうね。難しい気がします」
「そっか……それでもさ、また会おうな。約束しよう」
「……はい。約束しましょう」

 小指を絡め、指切りげんまん。
 嘘ついたら首持ってかれそうだな、これ。
 まぁ、こちらが破ることは絶対に無いんだけど。

「あぁほら、冷めるから早く食っちまえ」
「そうですね……んんんっ!?」

 ふはは。学習しないヤツめ。
 あぁ、本当に。ハツメといると、退屈しなかったな。

「ほら、カフェオレ飲めよ。美味いぞ?」

 言いながら自分のカフェオレに口をつける。
 冷めてしまったそれは、やはりほろ苦く、少しだけ甘かった。

文:くろひつじ
絵:HAta

二次創作ノベル

 出会いは偶然だった。

 当たり付きの自動販売機でコーヒーを買ったらたまたま当たってしまい、オマケで一本貰ってしまった。
 さてどうするか、と悩んでいた時に、ベンチに座っている後ろ姿が目に入ったのだ。

「えっとさ、自販機で当たりが出ちゃって。良かったらコーヒー、貰ってくれないかな?」

 どうせだからこの人にあげるかと軽い気持ちで声をかけて、そして後悔した。

 よく見なくても分かる。頭に菊の花を付けていて、可愛らしいけど奇抜な服装。
 ヴィオラ学園でも有名な変なやつ。
 そこに座っていたのは、ハツメさんという少女だった。

 しかもなんか、手裏剣っぽい物の手入れしてるし。

「え? 私ですか?」
「……うん。良かったら」

 今更引けないし。コーヒーの缶をそのまま彼女に手渡した。

 それがきっかけで、仲良くなるまであまり時間はかからなかった。
 確かに変な奴……と言うかかなりヤバい奴だけど、一緒に居ると不思議と楽しかった。
 運動神経も頭も良いハツメさんと、ことある事に勝負をしては負け続けた。
 その度に罰ゲームとして何かを奢らされたり拷問の実験台にされたけど、それはそれで楽しい日々だった。
 たまにドSスイッチが入るのは勘弁して欲しかったけど。

 一緒に映画を見に行った時は、自分で選んだくせに心霊系のホラー映画を見て全力で叫んでたな。
 何故かこっちが怒られたけど、涙目の彼女が可愛らしくて反論する気になれなかった。

 二人で、たまに彼女の友達と一緒に、楽しい日々を送っていた。
 そんなある日。

「あー……ごめん。実は、もう会えなくなるんですよね」

 下校中にいきなり告げられた、別れの言葉。

「ちょっと理由は言えないんですけど、多分もう会うことは無いと思います」

 少し寂しげに笑うハツメさんに、しかし何も返せない。
 彼女の性格的に、話せる理由ならすぐに説明してくれるはずだ。
 それが出来ないと言うなら、なにか事情があるんだろう。
 仕方ないと、思うしかない。けれど。

「……何か、出来ることはある?」
「無いですね」

 ハッキリとした強い拒絶。
 でも、とても悲しそうな表情で。

 とっさに、その言葉を口にした。 

「……最初はグー! ジャンケン!」
「え、え? あ、はい!」

 不意を着いて仕掛けた勝負。結果、見事に初勝利。

「くっ……卑怯な……」
「ハツメさんに言われたくないです。で、罰ゲームですけど」
「あーはいはい。なんですか?」
「どこに行っても、忘れないでくださいね」

 できるだけ軽い調子で伝えた、本音。
 それを感じ取ったのか、ハツメさんはハッとした後、もじもじと俯いて。
 そして意を決したかのように、がばっと頭をあげる。

「分かりました。きっと、忘れません!」

 切なくも嬉しそうな。今にも泣き出しそうな、でも幸せそうな笑顔を浮かべて。
 その彼女らしい素敵な笑顔が、最後の思い出となったのだった。

 それ以来、彼女と会うことは無かった。
 ただ、あの楽しかった日々の思い出は忘れられない。
 そしてきっと。彼女も忘れてなんかいないだろう。

 離れていても、心はすぐ側にあるのだから。

文:くろひつじ
絵:HAta